
1968年、マサチューセッツ総合病院の研究所にいたキルマー・マッカリーは、ホモシスチン尿症で35年前に死亡した子供のパラフィン固定された病理標本を検討しているときに、とんでもない発見をしたのです。
それは、8才の年令であるにもかかわらず、全身の動脈硬化だったのです。
しかも、一つの動脈にも、コレステロールの沈着は見られなかったのです。
つまりコレステロールは必ずしも動脈硬化発生にはつながらないのです。そこが世紀の発見につながる糸口になるのです。私はこの発見によって、マッカリーに対してノーベル賞が与えられるべきだと考えています。
当時の動脈硬化発生の理論は昔からのコレステロール・中性脂肪原因説でした。しかし、現実にはこれで説明できない矛盾があまりにも多いのです。
実際に毎日の臨床にたずさわっている臨床医なら、だれでも経験していることなのですが、非常にコレステロールや中性脂肪が高いのに、狭心症や心筋梗塞とは無縁の人がけっこういることに気づきます。
逆に、心筋梗塞、脳梗塞を起こした人にはコレステロールや中性脂肪がまったく正常な人もかなりいることに注意を促されます。先入観を振り払い、虚心坦懐の目で観察していると、コレステロールや中性脂肪は、なるほど多少は心・血管系の病気に結びつくものの、そう単純に直線的に結びつかないことが、たいていの臨床医にはうすうす気づかれていたはずです。
マッカリーの説明によると、過剰のホモシステインは肝臓でホモシステイン・チオラクトンという化学的に反応しやすい形となり、それが悪玉コレステロールといわれるLDLと肝臓の中で結びついて小さな塊となり、血液中に放出され、動脈壁に存在するマクロファージ(大食細胞)に貪食されます。
貪食したマクロファージは、泡状の細胞(病理学の専門用語では泡沫細胞)となり動脈硬化初期のプラークを形成します。
その泡状の細胞は貪食した小さな塊からコレステロールと脂肪を放出してさらにプラークの形成を促し、また周囲の動脈壁の細胞を活性酸素が蓄積しやすい形にもっていきます。
その結果、動脈を裏打ちしている細胞に傷害を与え、血塊の形成を促し、動脈の弾力性を失わせ、徐々に血管をつまらせ、また脆くしていきます。
しかし、ホモシステインが過剰にできなければ、少々多めのコレステロールや中性脂肪が血液中を巡っていたとしても、こういうことはおこらないのです。この学説は従来からいわれている、コレステロール・中性脂肪が動脈硬化に悪影響を及ぼすという説を決して否定はしません。否定はせず包括しているのです。
ちょうどニュートンの古典力学が相対性理論の特殊なケースであったの同じように、マッカリーによるホモシステイン説は、従来のコレステロール・中性脂肪首謀説を取り込んだうえに、さらにその説だけでは解明できなかった現象をもすんなりと説き明かしてくれるのです。
ホモシステインの代謝図をみながら、読んで下さい。
ホモシステインはすべてのタンパク質に含まれている必須アミノ酸であるメチオニンから、肝臓で代謝されてできます。肉に代表される動物性のタンパク質には、大豆などの植物性タンパク質に比べて約3倍のメチオニンが含まれているといわれています。
したがって、菜食主義者は肉食する人たちと比べて、それだけホモシステインの産生が少なく、動脈硬化にその分なりにくいことがわかります。
ホモシステインはビタミンB12と葉酸の助けによってメチオニンにリサイクルされます(サルベージ回路によるリメチレーション)。また、ホモシステインはシスタチオニンを経由し、システインやその誘導物として無害な形で尿に排泄されます。これには、ビタミンB6 が必要です。
したがって、この毒性をもつアミノ酸、つまりホモシステインをできるだけ少なくするにはビタミンB6 、B12、葉酸を補ってやればいいのです。いずれも、安いものです。(ホモシステインの正常の血中濃度はまだ確定されていませんが、5μmol/L 以下が望ましいとされています)。

またこの加齢とともにふえていくホモシステインは、活性酸素とも非常に深くかかわっているのです。
体内で発生した活性酸素の多くはミトコンドリア(細胞の中にある、独立した小さな器官。独自のDNAを有している。ATPの形でエネルギーを産生する)に取り込まれています。チオレティナコとよばれる、ホモシステインとビタミンAとビタミンB12の複合体は、オゾン(O3 )と酸素(O2 )に反応して、体内に摂取された食物の電子に酸素を供給し、水とATPをつくりだします。
しかし、加齢とともにミトコンドリアの膜よりチオレティナコが徐々に細胞質に漏れていき、オゾンと酸素をうまく活用することができず、それとともに活性酸素が蓄積していきます。
またチオレティナコの消失は、ホモシステイン・チオラクトンというホモシステインの活性型を、メチオニンから過剰に合成する結果となり、人体に悪影響を及ぼしていきます。以上がマッカリーによっていわれているホモシステイン理論です。
次にメチル化について、少し書いておきましょう。メチオニンがホモシステインへと代謝されるときに生じる、Sーアデノシルメチオニン(SAM)はメチル基(CH3 )を数多くの重要な生体反応に供与しますこれをtransmethylationといい、一般にはメチル化(メチレーション)とよばれています。
たとえば、クレアチニン、アドレナリン、ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルセリン(PS)といった生存に絶対に必要不可欠な物質はこのメチル化がうまく行なわれなければ生産されないのです。またメチル化はある種の発がん遺伝子が発現できないようにコントロールします。
ちなみに2008年9月4日に、京大のチームがネイチャー電子版に、細胞分裂時に不要な遺伝子が働いて異常が起きないよう(つまりがん化しないように)、DNAに化学変化を与えて“鍵”をかけておく仕組みを発表しました。
この仕組みがメチル化なのです。
このメチル化を自由に操作することができれば、がん治療や細胞づくりiPSに応用できるのです。DNAのメチル化は、ヒトゲノム解析析の完了とあいまって、21世紀初頭に最も研究されるテーマになるはずです。
このメチル基の重要なドナー(供与者)としてのSAMが(SAMe…サミーと発音されます…と呼ばれることのほうが多いようです)は、1970年代になってやっと安定した物質としてつくりだす方法が開発され、25年ほど前からヨーロッパで、そして最近になってようやくアメリカの市場に出回るようになりました。
副作用のほとんどない、非常にすぐれたメチル基のドナーとして、アルツハイマー病、うつ病、変形性関節症、肝機能改善、線維筋痛、老化防止などに安全なサプリメントとしてよく使われるようになりました。
今のところ日本では見かけませんが、ここ数年のうちにきっと普通の薬局で売られるようになると思います。
SAMeはメラトニンの合成にも必要です。メラトニンは若返りのホルモンとして、かつてもてはやされたことがありました。睡眠と覚醒のサイクルを調節する重要なホルモンです。抗酸化作用があり、抗酸化物質としてもすぐれています。
したがってSAMeを補うということはメチル化に役立つだけでなく、メラトニンを通じて、老化防止にも役立つというわけです。
しかしだれもがインターネットによるショッピングができるわけではないので、現実的な対応としては、三つのビタミンB群、つまりB6 、B12、葉酸(葉酸もビタミンB群の一つです)で、メチル化・ホモシステイン対策を積極的に行なう必要があります。
そこで、問題なのは量です。1日の所要量は、B6が1.6mg(男)、1.2mg(女)、B12が男女ともに2.4μg(マイクログラム)、葉酸が男女ともに200μgです。葉酸はそれでいいとして、ビタミンB6は25mg、ビタミンB12は500μgはとる必要があります(可能であれば1000μg)。
とくにビタミンB12は推奨許容量の200倍以上ですが、摂取過剰の心配は皆無です。ビタミンB12は肉や乳製品に多く含まれており、植物ではタケノコやレンコン、あるいは藻類のクロレラ、スピルリナ以外には含まれていません。
また、それらのB12は活性型ではありませんので、人体の中では役にたたないのです。
ですから、完全な菜食主義者には不足します。
また、60才以上のおよそ30パーセンの人は、胃酸分泌が低下し、このビタミンの吸収が阻害されますので補う必要があります。それと、ビタミンCを一度に3g以上とる場合は、ビタミンB12と同時にとらないほうが無難です。Cにより、B12が破壊されるおそれがあるからです。3時間はあけてとってください。
少し横道にそれますが、この重要なビタミンB12について少し書き足します。このビタミンは赤い色をしています。
中心にコバルトをもつ錯体で、かなり分子量の大きいビタミンです。
もともと、悪性貧血に、動物のキモ(肝臓)を食べると効果があるということで研究されているうちに発見されたものです。あとで述べるフリーラジカルの一種である一酸化窒素(NO)の非常に有効な消去作用を示します。一酸化窒素はもし過剰に存在すると、皮膚を初め、多くの器官に障害を与えます。
また、炎症性メディエーターとして、炎症も悪化させます。
日に1000μgが望まれると書きましたが、これは厚生労働省が定めている栄養所要量である日に2.4μgのおよそ400倍に相当します。
そこで、それだけ大量に毎日とって副作用はないかという質問をよくうけます。
副作用はまったくありませんと断言できます。
アメリカのスーパーマーケットで、医師の処方箋なしに簡単に購入できるビタミンB12のサプリメント1錠には1000μgが入っているものもあります。私自身、毎日1000μgはサプリメントからとっています。
しかし、医師など専門家からは、ビタミンB12の過剰摂取は、巨赤芽球性貧血の診断を誤らせるという反対意見をきくことがあります。
しかし、この巨赤芽球性貧血なる病気は極めてまれなもので、私は医師になってから30年間、まだ1度もお目にかかったことがありません。医学生のときの大学病院でもみなかったほどまれな病気です。
これほどまれな病気の診断を誤らせるという理由から、ほとんどの人たちをむしばんでいる炎症性疾患(アトピー性皮膚炎も含む)や、最近増えているうつ病の治療にビタミンB12の大量摂取を行わないというのは、これ以上愚かなことはないでしょう。
私のクリニックではアトピー性皮膚炎の患者さんに処方する軟膏にもB12を混ぜています。また、ビタミンB12は神経を取り巻いている鞘(ミエリン)をつくるのにも非常に重要な働きをします。
うつ病の発生にも関係しているようで、うつ病の人に、注射でビタミンB12を補うとかなり改善されます。
また、腸でB12が適切に吸収されるには、甲状腺ホルモンが正常に分泌されていなければいけません。したがって、甲状腺の病気にかかっている人は、血中B12をチェックしておくべきです。特に最近は、甲状腺ホルモンが一応正常範囲内を示すものの正常下限ぎりぎりで、ほとんど甲状腺機能低下症といってもいいくらいの(これを私は「隠れ甲状腺機能低下症」とよんでいます)人が多く、そういう人たちはB12が不足気味だと推測されます。こういう人たちの症状は、低体温、うつっぽい、便秘気味、体重増加、生理不順、倦怠感などです。「うつっぽい」症状はB12の不足からかもしれません。