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モンスター患者(1)

Part1 まずはサンフランシスコへ

 話はここで前後しますが、これはペルーで聞いた話です。ペルーの内陸部クスコでも、インカ帝国の前の、プレ・インカの時代には、ヨード不足で甲状腺腫をもった人が大勢いたそうです。ところが、海岸線にそった地域では、そういう人が見当たらなかった。そこで、これは海産物を食べるか食べないかの違いによるものだと考えられ、スギノリを飛脚で運ばせ、人々に食べさせたところ、甲状腺腫は消えたというのです。

 スギノリに含まれるヨードが内陸部の人々の健康を救ったわけですが、もとよりヨードと甲状腺の関係など当時は知るはずはありません。ですから、「スギノリ=甲状腺腫の治療食」と気づいた人は、素晴らしい洞察力をもっていたわけです。しかし、誰であるかわかっていません。おそらく、宮廷の医者だったのかもしれません。王に進言し、飛脚まで使ってスギノリを運ばせて人民に食させたのですから。

 プレ・インカとはインカ帝国以前の時代をすべて示しますが、いくら遅くとも11~12世紀以前のことです。その当時にあって、甲状腺腫が海の産物により治癒することを発見するとは、現代で言えば、エイズを何かの食物で治すことに等しいほどの偉業です。それと比べれば、現代の甲状腺研究専門医はエコー、CT、MRI、PET、ナノ単位で測定できる血液検査、という素晴らしいツールを持ちながら、蔓延する甲状腺の病気を発見できないでいます。これは、いったいどういうことなんでしょうか? 甲状腺専門医はアホなのか、それとも怠慢なのか? そうではないのです。よく勉強されています。では、なぜか?
 こと、日本に限っては、健康保険がきく甲状腺機能の検査項目が限られており、その範囲でしか検査ができないということが一つの理由なのです。それをこえる分は、患者さんの負担となります。日本の患者さんは、安い医療費に慣れていますから(国際的にみると日本の医療は、その質とスピード、それに対する税金から見ると、非常に!非常に!非常に!安いのです)、少しでも余計な分を払わせられると、文句を言います。おまけに、検査結果に異常がなければ、無駄な検査をやったとさえクレームが着きます。したがって、医者はもっと検査をした方がいいと分かっていても、しません。そこで、中途半端になってしまい、たとえば、rT3が異常に多いということが分からず、見かけ上甲状腺機能は正常となり、あなたのうつっぽく、重い気分は、心療内科か精神科で治してもらってくださいとなってしまうのです。

 しかし、検査結果に異常がなければ、無駄なことをやったと文句をつける患者は、まさにモンスター患者です。極めて非論理的な思考で詭弁を弄する患者です。そもそも、「検査」とは、正常か、あるいは異常かを調べる作業であって、それ自体は、無駄であるはずがないのです。こういう、モンスター患者の典型は、一泊二日の人間ドックで全身を検査してもらい、その結果どこにも異常が発見されなかったので、その患者いわく、「どこも、悪いところがなかったわけですから、検査は不必要だったわけですね。したがって、検査料金は払いません」と言う患者です。これは、都内のある病院で実際にあった話です。


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