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会場へ

Part1 まずはサンフランシスコへ

 翌日、21日、10時半ごろ、多和田先生と朝昼兼用の食事をTad’s Famous Steakで済ませ、徒歩7、8分の会場に向かいます。最初はまず登録です。会員番号をいい、パスポートを見せると、たて5センチ、横幅15センチほどの胸からぶら下げる名札をくれます。IT関係のお兄さんや、おねーさんが、よくぶらさげているID名札と考えてくださればよくわかります。少し大きすぎるのですが、何事も巨大な国にあっては、これが当たり前なのでしょう。そんな名札をかけたことがない僕は、なんとなく、IT関係従事者 になった気分です。この名札をぶら下げているかぎり、すべての会場への出入りがフリーパスです。
 会場によっては、入る前に、名札にあるバーコードがセンサーでチェックされるところもあります。その部門への入場のために、あらかじめ入場料が払われているかどうかチェックされるのです。
 会員数15万5千人をこえる学会が5日間にわたり開くものですから、口頭発表、ポスター発表、全部入れると優に1000を超える研究発表があるのです。40の部門に分かれ、 各々が発表を行います。会場も数箇所に分かれ、胸に「“Ask Me”」と書かれた黄色いシャツを着た、案内役のおじさんやおねーさんが、あちこちに立っています。また、コンピュータも数多く設置されており、無料でインターネットが使えます。したがって、日本からわざわざPCをもってくる必要はなかったのです。

 医者の僕にとっては、数ある部門の中でもむしろ医学とは関係のない、農薬部門などの研究発表の方が面白いのです。そして、ためになります。人を相手とした医療の面からしか見ていなかったところに、昆虫の方からみると、そこに新しい発見があるといった具合です。
 たとえば、農薬部門のカルフォルニア大学デービス校ハンモック教授の研究です。長年にわたる昆虫と殺虫剤の研究から、epoxide hydrolase (エポキシド加水分解酵素)を阻害すると、血圧降下作用、抗炎症作用、鎮痛作用があるということを見つけ出したのです。そして、AR9281という、小分子の可溶性エポキシド加水分解酵素阻害剤を合成し、実際に人間に投与し、安全な抗圧作用を証明しました。これは、現存するいかなる薬とも違っていて、まったく新しい抗圧剤になる可能性があるのです。あとで、ハンモック先生と名刺を交換しました。
  epoxide hydrolaseはアラキドン酸カスケードに登場してくる重要な酵素で、オメガ6系不飽和脂肪酸の代謝とも深く関係しており、現代人の油や脂の誤ったとり方が、多くの病気をひきおこしているという僕の考えと共通するところがあり、非常に面白いのです。こういう研究が医者によってなされず、昆虫学者によってなされているのです。

 最近は新しい薬をつくりだすのは、医者より、農学部出身の人が多いようです。抗高脂血症剤のスタチンも遠藤彰という東北大学農学部出身の微生物学者によって発見されました。この薬は世界で毎日3000万人投与されているとう、第二のアスピリンと呼ばれるほどの超ベストセラーの薬品です。つまり、視点を変えることが非常に重要なのです。(もっとも、この薬を実際に必要としている人は、その3000万人のうちの500分の1ほどの人のはずですが)。


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