*アトピー治療における要点

先日、患者さんから次のような質問メールが届きました。
「身近にいる、成人アトピーの方が、滲出液が頻繁に出ている時は、からだの中から毒素であるものを排出している状況だから、そこに油分の含まれたものを塗るのはふたをすることになるので、出し切ってしまうまでは良くないと聞きました。先生はその点はどう思われますでしょうか?」

これは体の中の毒素でありません。滲出液の正体は血管からもれて出てきた、血液成分のうち、水やタンパク質(グロブリン、アルブミン、フィブリノーゲン)などの血漿です。やや黄色みを帯びた中性の液体です。
炎症のために毛細血管が拡張し、血管の壁から、このような物質が漏れやすくなるのです。ですから、炎症がおさまるまで、「出し切ってしまう」ようなことはないのです。 人体の治療力によって、ふつうは自然に炎症はおさまり、やがて滲出液はとまりますが(これが出し切ったように見えるだけです)、アトピー患者さんの場合、けっこう長引き、かつ頻繁におこります。実生活に不便であるばかりでなく、不潔で、そこに黄色ブドウ球菌さえ過剰に繁殖する可能性があります。ですから、すみやかに対処すべきものであり、ほうっておくべきものではありません。

必ず一度は皮膚科で相談し、適切な患部の処置をして、抗生物質をもらい、指示に従って服用したほうが良いでしょう。

2) 赤ら顔、顔のくすみ

各々の症状により処方が相違します。基本的には外的な処置とサプリメント摂取の併用が有効です。
症状をお送りいただければ、個々に応じた処方を回答いたします。

3) アトピーと併発したニキビ

アトピーに併発したニキビは、治療にはけっこう工夫が必要です。なぜなら、アトピーを治そうとして軟膏を塗ると、その軟膏で毛穴がつまり、今度はニキビが悪化するからです。
こういう場合、顔だからといって、弱めのステロイドを使うのではなく、逆に強めの軟膏を薄くぬり、アトピーによる皮膚の痒み・炎症を短期間で抑え、あとはできるだけ何も塗らないで様子をみる方が良いのです。

症状が悪化し、細菌による炎症まででてきたケース(いわゆる‘赤ニキビ’)では、抗生物質がはいったアクアチム・クリームやゲンタシン軟膏が処方されることがありますが、それで治らないケースが多々あり、さらに、ミノマイシン(テトロサイクリン系)などの抗生物質が飲み薬として使われることもあります。

しかし、その薬を服用している間はなんとか調子がいいのですが、やめるとまたひどくなることが多いものです。 抗生物質をえんえんとのみ続けることはよくありませんので、下記のようなサプリメントを試されてもよいでしょう。
摂取量は個々の症状によって相違しますので、ご相談ください。相談フォームへ
 

プロバイオティクス
便秘はニキビを悪化させます。腸の働きを整えることは、ニキビ対策にはことの他大切です。

腸溶性ラクトフェリン
ラクトフェリンは経口的に摂取されてだけでも、弱毒病原体の増殖・炎症を抑え込むことができます。ニキビの原因となるアクネ菌に対しても優れた抗菌作用があります。

クロム
皮膚の炎症を防いでくれます。いろんな形のクロムが販売されていますが、ピコリン酸クロミウムがすすめられます。

ビタミンC
抗炎症作用があり、また、便秘を解消してくれますので、こういった面からもニキビに効果があります。

ビタミンB5
ビタミンB群も同時にとられたらいいでしょう。ニキビの原因の一つは、脂腺からの過剰な皮腺(脂肪酸)の分泌です。 この脂肪酸代謝に最も重要なのが、補酵素A(CoA)です。 この補酵素が不足すると脂肪酸を分解できず、これが脂腺から皮膚の表面に出ていき、結果的に毛穴を防いでニキビをつくっていくのです。 この補酵素の重要な構成物質がパントテン酸、つまりB5なのです。

睡眠
睡眠はサプリメントではありませんが、ニキビ改善には必須です。睡眠不足で緊張状態が続くと、皮脂腺からの皮脂量が増え、アクネ菌も増える原因になります。ニキビの症状がよくないときは、どんなに遅くとも、午後11時までには床に就くことをおすすめします。深夜を過ぎて床につくと、成長ホルモンの分泌が悪くなり、皮膚に悪影響をもたらすからです。また就寝前3時間に夕食はすましておいてください。血糖値が高ければ分泌が鈍ります。したがって、理想は夕食を午後6時30分までに終わり、すぐに床には着かず、血糖値が下がる2〜3時間以上あと、つまり9時か10時ごろには床に着くことです。成長ホルモンは80才を過ぎても分泌され、子供の背たけをのばすだけでなく、他にも多彩な働きをします。こと皮膚に関しては傷ついた皮膚を修正してくれます。美肌には必須のホルモンなのです。

4) 乾燥肌についてー概論、改善策

皮膚が異常に乾燥すると、痒みを伝達する知覚神経線維が真皮から表皮にまで侵入 し、余計に痒みを感じます。
そのため、掻いてしまい、炎症がおこり、さらに痒みがますという悪循環がおこります。ですから、乾燥はできるだけ早いうちに、改善しなければいけないのです。それには、下記に述べるフィラグリン、コラーゲン、セラミドを十分に生産することが非常に大切です。

1. フィラグリン
フィラグリンに関して、近年のアトピー性皮膚炎の治療法において著しい変革がもたらされました。それは「フィラグリン遺伝子の変異」の理解が深まったことに起因しています。

フィラグリンは、表皮の顆粒細胞で産生される特定のタンパク質であり、皮膚のバリア機能に不可欠です。その極度の欠如が見られる代表的な疾患は魚鱗癬で、皮膚の保湿能力が著しく低下し、皮膚が常に乾燥した状態になります。

2006年に英国で行われた研究によれば、アトピー性皮膚炎患者の約1/3~1/2がフィラグリン遺伝子の変異を有していることが明らかにされました。これが刺激となり、日本でも研究が行われ、名古屋大学の報告では、アトピー性皮膚炎患者の27%に「フィラグリン遺伝子の変異」が見られるとされています。これは、日本のアトピー性皮膚炎患者の約1/4~1/3が「フィラグリン遺伝子の変異」を持っていることを示しています。

改善策として、プロトピック(一般的な名前:タクロリムス)は、免疫系の反応を抑制することで皮膚の炎症を減らす薬でフィラグリン遺伝子に変異がある場合、プロトピックがフィラグリンmRNAの発現を増加させるとされていますので症状を和らげる可能性があります。
しかし、プロトピックを過度に使用することは推奨されません。大量に塗ると、皮膚が薬に過敏反応を示す可能性があり、皮膚の状態をさらに悪化させる恐れがあります。そのため、保湿剤としてのクリームやローションの使用が重要となります。牧瀬クリニックでは軟膏の使用前に、必ず皮膚の保湿としてローションを使用していただきます。

2. コラーゲン
アトピー性皮膚炎の患者の約10%にMMP-1遺伝子の変異が見られると推測されています。この遺伝子に変異が存在すると、コラーゲンが過度に分解される状況が生じます。MMP-1はマトリックスメタロプロテアーゼ-1(Matrix metalloproteinase-1)の一種で、コラーゲンのトリプルヘリックス構造を断裂する能力を有する酵素です。この酵素が過剰に活性化すると、真皮層に存在するコラーゲンが分解され、その結果、肌の保湿性が低下し、皮膚が乾燥してきます。

このMMP-1は、わずかな紫外線で量が増え、活性化されてしまいます、これによりコラーゲンが過剰に分解されることになります。したがって、保湿を主に考えると、日光浴はアトピー性皮膚炎には推奨できません。特に乾燥肌の人は、日光浴を自発的にするのを控えるべきかもしれません。ただし、紫外線は皮膚に繁殖する有害な細菌を殺したり、ビタミンD3の生成を促進するなど、良い面もあります。

マトリックスメタロプロテアーゼは約25種類存在し、皮膚のコラーゲンに関与するマトリックスメタロプロテアーゼ-1遺伝子は11番目の染色体に位置しています。マトリックスメタロプロテアーゼは血管新生や腫瘍の増殖にも関連しており、最近では癌治療の観点からも積極的に研究が行われています。

MMP-1遺伝子に変異がある場合の改善策として、コラーゲンの原料となるアミノ酸を多く含む、サプリメントがすすめられます。コラーゲンをつくっているアミノ酸は、グリシン、アラニン、プロリン、ヒドロキシプロリンなどですが、特にヒドロキシプロリンは普通の食材には含まれていません。 したがって、ヒドロオキシプロリンを多く含むコラーゲンのサプリメントや食材を摂ることは、体内でのコラーゲンの生産にも役に立つと考えられます。
糖タンパク質が腸管から吸収され、細胞外マトリックスでⅠ型コラーゲンを増やすプロテオグリカンもサプリメントとしてすすめられます。
極端なビタミンC不足や鉄不足はコラーゲンの生成を邪魔しますので注意が必要です。しかし過剰のビタミンCや鉄の摂取もアトピーには非常に悪いこともありますので摂取量には気をつける必要があります。鉄は、鉄欠乏性貧血でないかぎり、食事からで十分です。

3. セラミド
皮膚の保湿に重要な役割を果たすもう一つの物質がセラミドです。皮膚の最表層である角層には、ケラチン線維を含んだ細胞が存在します。これらの細胞内に含まれるセラミドという脂質は、その保水力が非常に高いことで知られています。しかしながら、アトピー性皮膚炎の患者の皮膚では、セラミドの量が少なく、代わりにスフィンゴシルフォスホリルコリン(SPC)やグルコシルスフィンゴシンといった保水力の低い脂質が多く見られます。

特にSPCの増加は角層の硬化を引き起こし、わずかな刺激で傷がつきやすくなり、皮膚のバリア機能が損なわれることに繋がります。セラミドは表皮基底層の有棘層や顆粒層で、セリンとパルミトイルCoAというアミノ酸から合成されます(詳細は代謝図をご参照ください)。セラミドはその後、グルコシルセラミドやスフィンゴミエリンとして蓄積され、角質最下層で細胞外に排出されます。

角質細胞間では、グルコセレブロシダーゼまたはスフィンゴエミリナーゼにより再びセラミドに変換され、他の細胞間脂質と共に微細な膜(ラメラ)構造を形成します。この構造が皮膚の保湿に重要な役割を果たします。

加えて、セラミドはセラミダーゼによりスフィンゴシンと脂肪酸に加水分解されます。老人性乾皮症では、加齢とともにこのセラミダーゼの活性が増加するため、セラミドの減少が見られ、皮膚が乾燥します。

しかしながら、アトピー性皮膚炎の場合、セラミダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、β-グルコセレブロシダーゼの活性には異常は見られません。アトピーの症例では、グルコシルセラミドアシラーゼの活性が高く、その結果としてグルコシルスフィンゴシンが増えています。また、β-グルコセレブロシダーゼが、異常に高い活性を示すグルコシルセラミドアシラーゼと競合し、バリア機能に重要なアシルグルコシルセラミドの生成が減少します。

更に、スフィンゴミエリンデアシラーゼの活性が異常に高くなり、スフィンゴミエリナーゼと競合することで、セラミドよりもSPCの合成が優先されます。これにより、セラミドの生成が適切に行われず、皮膚の保湿機能が低下します。

セラミドを増やす最良の方法は、よく眠ることで、特に成長ホルモンが分泌される午後10時ごろ~午前2時ごろには、寝ることをすすめます。
サプリメントとしてはビタミンB6を50mg、マンガン3mg、 そして仕事の都合で午後11時までには寝られない人は、できれば、α-GPCを摂るというのが現実的です。

5) 特に顔の乾燥を防ぐ簡単な方法

秋口になると特に顔の乾燥を訴えてくる人が増えてきます。そういう場合、ビオ・オーガニック・ウォーター、リカバリー・ビオ・ウォーター、シンビオテックウォーター、ピーアイローションのどれか一つを塗り、その上に、ヘパリン泡フォーム(へパリン類似物質泡状スプレー)を塗るとかなり改善されます。ヘパリン類似物質クリームやヘパリン類似物質ゲルは薬局で売っていますが、泡状フォームのほうがはるかに効果的です。

ここに書かれていることは、ドクター牧瀬が、延べ5万人以上の皮膚科領域の患者さんを、内科医の立場から診察した、つまり、多くの皮膚病は体の内部の問題が皮膚に現れたとみなして治療する根治方法です。
 しかし、ご自分の症状を正確に把握せず、ここに 書かれてあるサプリメントをとったり、勝手な治療法を行い、症状が悪化してもドクター牧瀬 はいっさい責任をとれません。

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