
①パクリタキセル含有杉
「笏」(しゃく)というものをごぞんじでしょうか。天皇や昔の貴族が束帯を着用するとき、右手にもつ細長く薄い板といえばおわかりになるでしょうか。
この板は「一位の木」と呼ばれる杉の一種からつくられています。成長が大変おそいのですが、千年単位で生きる長寿の木でもあります。木部がかたく稠密で弾力性があり、しかも加工しやすいので、彫刻、仏像、櫛などに古代から現代へと世界中で使われ続けてきました。
しかし、最近にあっては、この「一位の木」に強力な抗がん物質パクリタキセルが含有されていることが発見されたのです。
パクリタキセルの商品名はタキソールで、普通はこちらの名称の方が有名になっています。このパクリタキセルは独特のメカニズムでがん細胞を殺傷します。細胞分裂に必要な微小管の安定化と過剰形成をおこし、その働きを阻害し、がん細胞の分裂を邪魔するわけです。
そのためタキソールはアメリカの製薬金社ブリストル・マイヤーズ・スクイブによって鳴り物入りで宣伝され、日本を含めた世界五十数カ国で使われています。たしかにそれだけの力のある抗がん剤で、際立った抗腫瘍能力を示します。
抗がん剤として普通の病院で使う場合、通常、成人にはパクリタキセルとして、1日1回210ミリグラム/体表面積(平方メートル)を3時間かけて点滴静注し、少なくとも3週間休薬します。これを1サイクルとして、投与を繰り返します。
体表面積の出し方は対数計算を使い結構面倒ですが、例えば身長170センチ、体重60キログラムの人であれば1.6958平方メートルとなります。したがって356.118ミリグラムの投与になり、つまり、単純に計算すれば1日17ミリグラムほどです。
これくらいの量のパクリタキセルで強い抗がん作用を示すわけです。しかし、このように純粋にパクリタキセルとして大量に投与した場合、特に抹消神経障害という重篤な副作用をおこすことがあります。つまり、普通の抗がん剤と、つまるところ同じほど危険な薬品になってしまうのです。
そこで、熱水抽出、つまり煎じて飲むという方法がすすめられます。半合成や全合成されたものより、自然に近くはるかに安全なのです。熱水抽出成分の中にあるパクリタキセルは、がん細胞が増殖しかけると、遊離型になって正常な細胞には作用せずがん細胞のみを攻撃します。
がん細胞がおとなしいときは、パクリタキセルは糖などと結合して、正常な細胞を攻撃しないのです。つまり非常に安全なのです。 がん以外にも、子宮筋腫、糖尿病、腎臓病、花粉症、C型肝炎などにも有効です。