本当に正しい知識の羅針盤「ドクター牧瀬のサプリメント講座」


新世界症候群

アメリカのピマ・インデアン、ミクロネシアのコスラエ島の住民たちの間では、西洋文明の突然の移入により、彼らの伝統的な生活習慣と食事が破壊され、急激に肥満、糖尿病、高血圧が増え始め、寿命が縮まっています。
また、がんのない村で有名だった、パキスタンのインダス川上流、カラコルム山脈の麓に位置するフンザにもがん、糖尿病が発生し始めています(2005年4月下旬、アプリコットの満開の季節、私はこの村に数日滞在し現地調査を行いました)。写真の桜のように写っているのは、アプリコットです。


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一昨年、インドネシアのボルネオ島の北部に位置するブルネイという小さな国に行きました。美しい回教国です。
石油が豊富に出るため、所得税はなし、医療も教育もまったく無料という、日本人から見ればうらやましいかぎりの国です。もし、国民が自国で受けることができないような高度の手術を、たとえばオーストラリアの病院で受ける場合、オーストラリアの病院が請求する治療費、入院費だけでなく、飛行機代なども、ブルネイ政府が出してくれるという素晴らしい福祉国家です。
ところが、ここで急速に問題になりつつことがあります。
それは肥満です。ブルネイ王室付属病院の栄養士と話したところ、ブルネイ国民の肥満は、世界最高のスピードで増加しているというたいへん不名誉な事態だそうです。

その理由は、ジャンクフードへの耽溺、石油の産出国であるがゆえにただに近いほど安いガソリンがもたらす車社会、あくせく働く必要がない豊かなストレス・フリーの生活、こういうものが重なりあい、ブルネイ国民は恐ろしい速度で太りだしてきたのです。 この現象を疫学では「新世界症候群」と表現します。
今、国民病のようになりつつある、アトピー性皮膚炎や糖尿病も、新世界症候群の亜型とみなしたほうが、理解しやすいし、はるかに適切な治療が行えるのです。
こういう視点は現代の医師にはまったく欠如しています。
欠如しているというより、病気を歴史や地理という視座からもとらえることが重要であることを知らないのです。これは医学教育に問題がありそうです。
ヒポクラテスのギリシア時代にあっては、医師は村から村へと、渡りあるきながら、患者を治療することが多かったのです。
病院という施設ができたのは近代からです。
したがって、古代の医者は、病気が風土と密接に関係していることを熟知していたのです。

身土不二(しんどふじ)」という言葉があります。
残念ながら、今は、かなり大きな国語辞書(例えば広辞苑)にも載っていません。その意味は、身体と環境(特にこの場合は、その土地で採れた食物)は不可分であるということです。
人にとっては、自分の足で歩いて行ける範囲、つまり三里四方あるいは四里四方で採れたものを食べるべきであり、それが健康に良いということなのです。カラハリ砂漠の遊牧民、熱帯モンスーン地方の農耕民族、グリーンランドのエスキモー、彼らの食事はおのずと違うはずです。
その気候、風土、生活習慣に合わせて、食事内容は変わるべきもので、その個性的な食事が各民族の健康を維持してきました。
ところが、巨大な西洋文明の野放図の拡大によって、各地方によって個性的であった本来の食事内容も、獣肉を中心とし、油を多く使ったメインディッシュと、コーンシロップや白砂糖を過剰に使った清涼飲料水へと十把ひとからげに激変していったのです。
その帰結が「新世界症候群」なのです。

しかも、モンゴロイド系の日本人は、他の人種よりも、肥満になりやすいのです。
モンゴロイドは何万年も前から厳しい飢餓にさらされてきたため、余ったエネルギーを脂肪のかたちで効率よく蓄えさす遺伝子が生き残ったのです。
これを「倹約遺伝子」あるいは「節約遺伝子」とよびます。
現在、私たちの日常生活で、明日の食料をどう調達すればいいかと思い煩うことは、経済的に困窮していないかぎり、まずありえません。腹が減れば夜中の3時でも、コンビニで弁当が買えます。しかし、万単位どころか数千年の昔ですら、明日の食事が最大の問題だったのです。
したがって、明日にも食料が入手できないことを常に予想し、今日の食料から得たエネルギーの余剰を保存しておくシステムが体に備わったのです。それには内臓脂肪として蓄えるのが最も効率的で、つまるところ、太らせるということに他ならないのです。

そこに、脂肪が多い西洋的食事が流れ込んできたものだから、さあ、たいへんです。普通、和食は脂肪がおよそ8%で、洋食は脂肪がおよそ30%です。8%の脂肪に適応する倹約遺伝子をもっていた人間に、30%の脂肪がやってきて、これで内臓脂肪がたまらないわけはないのです。
そして、内臓脂肪が増えるとアディポネクチンの分泌が減り、糖尿病、動脈硬化、高血圧、がんへと進んでいくのです。
ここでアディポネクチンという言葉でてきましたので、簡単に説明しておきます。これは脂肪組織から分泌される一種のホルモンです。

1996年に大阪大学で発見されました。「アディポ」とは脂肪を、「ネクチン」は接着という意味で、血管壁などにくっつきやすい性質があるからです。しかし、くっつくといっても、血管壁の傷を修復するためにくっつくのであって、いい効果をもたらすわけです。つまり、善玉なのです。
したがって、血中に多くあればあるほど、いいのです。ほとんどの長寿の人は、一般の人よりアディポネクチンを多くもっています。また、平均して、女性の方が男性よりも、血中アディポネクチンの量は多いのです。女性が男性より長生きであるのは、このことにもよるかもしれません。

この新世界症候群に対する、私たち日本人の対処は、非常に簡単です。和食に戻るということにつきます。現在、最も健康にいいとされている食事は、「和食」と、「地中海の食事」です。両方とも海産物と野菜が豊富です。海産物からヨードとオメガ3系統の不飽和脂肪酸、野菜から数々の抗酸化物質が補えるからです。

*「太ったインディアンの警告」(生活人新書刊)、「太りゆく人類」(早川書房)という本は参考になります。