ホモシステインはすべてのタンパク質に含まれている必須アミノ酸であるメチオニンから、肝臓で代謝されてできる毒性をもったアミノ酸です。このホモシステインこそが、実は動脈硬化の元凶なのです。コレステロールそのものは動脈硬化をおこしません。

実際に毎日の臨床にたずさわっている臨床医なら、だれでも経験していることなのですが、非常にコレステロールや中性脂肪が高いのに、狭心症や心筋梗塞とは無縁の人がけっこういることに気づきます。

逆に、心筋梗塞、脳梗塞を起こした人にはコレステロールや中性脂肪がまったく正常な人もかなりいることに注意を促されます。先入観を振り払い、虚心坦懐の目で観察していると、コレステロールや中性脂肪は、なるほど多少は心・血管系の病気に結びつくものの、そう単純に直線的に結びつかないことが、たいていの臨床医にはうすうす気づかれていたはずです。

悪玉LDLコレステロールと善玉HDLコレステロールの比率がどうとかこうとかということは、事実上それほど意味がないのです。しかし、声をあげて反論するほどでもない。それにきっちりと証明するには時間もない、金もない。

それより、「患者さん、コレステロールが高いですね、じゃ、お薬を」と出していたほうが無難で、お金も入ってくる。というわけで、日本のみならず世界中の医者たちが、コレステロール・中性脂肪を悪役に仕立てて、まともな追求をしなかったのです。

ホモシステイン理論の第一人者キルマー・マッカリーの説明によると、過剰のホモシステインは肝臓でホモシステイン・チオラクトンという化学的に反応しやすい形となり、それが悪玉コレステロールといわれるLDLと肝臓の中で結びついて小さな塊となり、血液中に放出され、動脈壁に存在するマクロファージ(大食細胞)に貪食されます。

貪食したマクロファージは、泡状の細胞(病理学の専門用語では泡沫細胞)となり動脈硬化初期のプラクを形成します。その泡状の細胞は貪食した小さな塊からコレステロールと脂肪を放出してさらにプラクの形成を促し、また周囲の動脈壁の細胞を活性酸素が蓄積しやすい形にもっていきます。

その結果、動脈を裏打ちしている細胞に傷害を与え、血塊の形成を促し、動脈の弾力性を失わせ、徐々に血管をつまらせ、また脆くしていきます。しかし、ホモシステインが過剰にできなければ、少々多めのコレステロールや中性脂肪が血液中を巡っていたとしても、こういうことはおこらないのです。

この学説は従来からいわれている、コレステロール・中性脂肪が動脈硬化に悪影響を及ぼすという説を決して否定はしません。否定はせず包括しているのです。

ちょうどニュートンの古典力学が相対性理論の特殊なケースであったの同じように、マッカリーによるホモシステイン説は、従来のコレステロール・中性脂肪首謀説を取り込んだうえに、さらにその説だけでは解明できなかった現象をもすんなりと説き明かしてくれるのです。


ホモシステインの代謝図をみながら、読んで下さい。ホモシステインはすべてのタンパク質に含まれている必須アミノ酸であるメチオニンから、肝臓で代謝されてできます。

肉に代表される動物性のタンパク質には、大豆などの植物性タンパク質に比べて約3倍のメチオニンが含まれているといわれています。したがって、菜食主義者は肉食する人たちと比べて、それだけホモシステインの産生が少なく、動脈硬化にその分なりにくいことがわかります。

ホモシステインはビタミンB12と葉酸の助けによってメチオニンにリサイクルされます(サルベージ回路によるリメチレーション)。また、ホモシステインはシスタチオニンを経由し、システインやその誘導物として無害な形で尿に排泄されます。

これには、ビタミンB6 が必要です。したがって、この毒性をもつアミノ酸、つまりホモシステインをできるだけ少なくするにはビタミンB6 、B12、葉酸を補ってやればいいのです。いずれも、安価なものです。

またこの加齢とともにふえていくホモシステインは、すでに述べた活性酸素とも非常に深くかかわっているのです。体内で発生した活性酸素の多くはミトコンドリア(細胞の中にある、独立した小さな器官。

独自のDNAを有している。ATPの形でエネルギーを産生する)に取り込まれています。チオレティナコとよばれる、ホモシステインとビタミンAとビタミンB12の複合体は、オゾン(O3 )と酸素(O2 )に反応して、体内に摂取された食物の電子に酸素を供給し、水とATPをつくりだします。

しかし、加齢とともにミトコンドリアの膜よりチオレティナコが徐々に細胞質に漏れていき、オゾンと酸素をうまく活用することができず、それとともに活性酸素が蓄積していきます。

またチオレティナコの消失は、ホモシステイン・チオラクトンというホモシステインの活性型を、メチオニンから過剰に合成する結果となり、人体に悪影響を及ぼしていきます。

以上がマッカリーによっていわれているホモシステイン理論です。

次にメチル化について、少し書いておきましょう。メチオニンがホモシステインへと代謝されるときに生じる、S-アデノシルメチオニン(SAM)はメチル基(CH3)を数多くの重要な生体反応に供与しますこれを一般にはメチル化とよんでいます。

たとえば、クレアチニン、アドレナリン、フォスファチジルコリン(レシチン)、フォスファチジルセリンといった生存に絶対に必要不可欠な物質はこのメチル化がうまく行なわれなければ生産されないのです。

またメチル化はある種の発がん遺伝子が発現できないようにコントロールします。DNAのメチル化は、ヒトゲノム解析の完了とあいまって、21世紀初頭の10年に最も研究されるテーマになるはずです。

このメチル基の重要なドナー(供与者)としてのSAMが(SAM-e…サミーと発音されます…と呼ばれることのほうが多いようです)は、1970年代になってやっと安定した物質としてつくりだす方法が開発され、25年ほど前からヨーロッパで、そして最近になってようやくアメリカの市場に出回るようになりました。

副作用のほとんどない、非常にすぐれたメチル基のドナーとして、デプレッション(抑うつ気分)、アルツハイマー病、変形性関節症、肝機能改善、線維筋痛、老化防止などに安全なサプリメントとしてよく使われるようになりました。

今のところ日本では見かけませんが、ここ数年のうちにきっと普通の薬局で売られるようになると思います。インターネットショッピングができる人は、Googleあたりにアクセスすればすぐに入手できるでしょう。

しかしだれもがインターネットによるショッピングができるわけではないので、今の日本における現実的な対応としては、三つのビタミンB群、つまりB6、B12、葉酸(葉酸もビタミンB群の一つです)で、メチル化・ホモシステイン対策を積極的に行なう必要があります。

そこで、問題なのは量です。1日の所要量は、B6が1.6mg(男)、1.2mg(女)、B12が男女ともに2.3マイクログラム、葉酸が男女ともに200マイクログラムです。葉酸はそれでいいとして、ビタミンB6 は25ミリグラム、ビタミンB12は500マイクログラムとる必要があります。

とくにビタミンB12は推奨許容量の80倍以上ですが摂取過剰の心配は皆無です。ビタミンB12は肉や乳製品に多く含まれており、植物ではタケノコ以外には含まれていませんから、完全な菜食主義者には不足します。

また、60才以上のおよそ30パーセンの人は、胃酸分泌が低下し、このビタミンの吸収が阻害されますので補う必要があります。

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