1)  環境汚染説

非常にもっともらしく聞こえますが、これだけでは説明できません。もし、この説がすべてであれば、中国、インドネシアなどの、日本や韓国よりもっと環境汚染がひどい国のほうが、アトピー患者が多いはずです。

また、旧社会主義圏で環境汚染がひどかった東ドイツと、環境汚染が軽度の西ドイツを比べた場合、東ドイツの方がアトピーや喘息の患者は少ないのです。

つまり、アトピーは環境汚染が原因であるというのは、一見すると正しいように見えるのですが、必ずしもすべての症例にあてはまるものではありません。現実に、ぼくのクリニックには、環境汚染が非常に少ないはずの五島列島や長野の高地からも患者さんが来られます。

たしかに、自宅が大きな道路に面して排気ガスがひどく、そのために症状が悪化し、空気のきれいな田舎に転地したら改善するというケースはあります。なぜなら、ディーゼル車の排気ガスに含まれるディーゼル排気粒子がIgE抗体の産生を促すからです。

また、環境ホルモン(内分泌攪乱物質)の影響も非常に大きく深刻なもので、これについてはあとで詳しく述べます。しかし、環境汚染だけが原因であるとしてしまえば、アトピー蔓延の最も重大な原因を見落とすことになります。

2)  ダニやハウスダスト説

最近、部屋に絨毯、カーペットなどを使うことが多くなり、またアルミサッシで部屋が密封状態になり、ダニが繁殖しやすくなったといわれます。そして、ダニの糞由来のアレルゲン(Der1)やダニ虫由来のアレルゲン(Der2)などの研究が熱心にされています。

たしかにそういったアレルゲンはアトピーの原因になりえます。しかし、だからといって、徹底的に部屋を改造し、フローリングにし、通風もよくし、またダニがつかない高額で特別な布団を購入されても、少しもアトピーが改善しない患者さんは現実にはよくおられます。

7割の人は改善しません。また、改善したとしても、完治したという患者さんには、実際にはいまだお目にかかったことはありません。

身辺を清潔にすることはいいことですが、清潔さとアトピーは、そう簡単には結びつかないのです。むしろ、過度のクリーンさは、かえってよくないとさえ言えるのです(このことについてもあとで詳述します)。

3) 花粉説

杉花粉の多い日本では杉が花粉をばらまく季節に花粉症がひどくなり、それと同時にアトピーが悪化する人はかなりいます。したがって、ある程度は関係があります。

しかし、8割のアトピー患者さんは花粉の季節とは関係ありません。また、杉花粉の少ない韓国でアトピーが急激に増えていることは、花粉説では説明がつきません。

4) シックハウス症候群説

新しく建てられた家の壁、床、柱などに使われている建材には多種多様の塗料が塗られ、有機溶剤が使われています。それらがアレルゲンとなり、入居者にいろいろなアレルギー症状を引き起こすというのです。

たしかに、これも一つの原因でしょう。しかし、これだけで説明できるものではありません。なぜなら、古い家に住んでいても、アトピーになります。ほとんどの患者さんは新しい住居に引っ越す前から発症しています。

5)  経皮毒説

シャンプー、リンス、石鹸、化粧品、洗剤、染毛剤、等々の有害物質が皮膚を経由し、しかも肝臓で代謝されずに体内に入ってくるため、それらが蓄積しアレルゲンとなり、 アトピーを引き起こすという考えです。特に合成界面活性剤がよくないといわれ、アトピーを蔓延させ、悪化させているというわけです。この説は部分的には正しいのです。
なぜなら、合成界面活性剤の多くはエストロゲン作用をもち、リンパ球のTh1細胞とTh2細胞のバランスをくずし、アレルギー症状を悪化させるからです。 しかし、この説もオールマイティではなく、現場で数多くのアトピー患者と接しているぼくは、次のような例を最近非常によく経験するからです。

もし、経皮毒がアトピーの主要な原因であれば、経皮毒として最も強い物質の一つヘアーカラーの毒が、頭皮から浸入してアトピーを悪化させなければいけません。しかし、茶髪にしている患者さんに、アトピーは茶髪にしてからひどくなったかときくと、いやそうではなく、茶髪にするずっと以前から発症しており、 茶髪にした時期とはまったく関係がないという答がほとんどなのです。また、男性の方が圧倒的に茶髪にしておりませんが、アトピーの比率は男女ほぼ同じです。 幼稚園児、小中学生は茶髪にしていませんが、アトピーは増えています。

もっとも、経皮毒はたしかにあり、体に害をなしています。癌の原因にさえなっているでしょう。アトピーを改善させるには経皮毒を最大限回避することは必要です。 しかし、経皮毒こそがアトピーの主要な原因であるとしてしまえば、現実を見ないことになってしまい、これもまた、もっと大きな原因を曇らせてしまうのです。

6)  汗・マラセチア説

これは、もっとも重要な原因ではありませんが、たしかに汗は悪化要因になります。それは、日本人の研究者たちによって、最近、証明されました。
皮膚に常在するカビ「マラセチア菌」の一種が分泌するタンパク質“MGL—1304”は、汗に溶けて皮膚に入ると、アレルギー反応を引き起こすことが発見されたのです。 研究グループはアトピー患者さん延べ500人分の血液約15リットルと、延べ4千人分の汗約600リットルをサンプルに実験を繰り返し分析、そのタンパク質を特定したようです。

マラセチアは真菌の一種で、10種類ほどの種類があり、その中のマラセチアグロボーザ(Malassezia globosa)が原因菌です。研究者は、アトピーの8割は、この菌が分泌するタンパク質が原因だと主張します。

しかし、現在のアトピー患者さんのほとんどは、汗をかかない仕事に従事しています。年から年中、空調のきいた部屋で働くIT関係者などに多いのです。 そして、汗をいくらかいてもアトピーを発症しない人はおおぜいいます。そこのところが解明されていません。

それでも、アトピーは夏に悪化することが多く、1割〜2割のケースでは、タンパク質“MGL—1304”が汗に溶けて皮膚に浸透することが原因のケースもあるでしょう。
しかし、「汗・マラセチア」がアトピーの8割の原因だとは、少し、言いすぎではないでしょうか。

ここに書かれていることは、ドクター牧瀬が、延べ5万人以上の皮膚科領域の患者さんを、内科医の立場から診察した、つまり、多くの皮膚病は体の内部の問題が皮膚に現れたとみなして治療する根治方法です。
 しかし、ご自分の症状を正確に把握せず、ここに 書かれてあるサプリメントをとったり、勝手な治療法を行い、症状が悪化してもドクター牧瀬 はいっさい責任をとれません。

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